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静岡地方裁判所 昭和62年(行ウ)4号 判決 1988年5月27日

原告 環境産業株式会社

被告 静岡県知事

主文

一  原告の本件各訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和六二年三月六日付けでした事前協議申出却下処分を取消す。

2  被告は、原告に対し、原告のした右事前協議の申出が昭和六二年三月六日付けで被告において受理されたものであることを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  土地利用事業に関する指導要綱

静岡県は、県下の土地利用事業の施行に関し、施行区域及びその周辺の地域における災害を防止するとともに、良好な自然及び生活環境の確保に努め、もつて県土の均衡ある発展に資することを目的として昭和四九年一二月二四日、静岡県告示第一二〇九号をもつて「静岡県土地利用事業の適正化に関する指導要綱」(以下「県指導要綱」という。)を告示して施行しており、右要綱第六条には、二ヘクタール以上の一団の土地について土地利用事業を施行しようとする事業者は、法令に基づく許可、認可等の申請又は届出をする前に、あらかじめ被告の承認を受けなければならない旨の規定があり、同要綱第一〇条には、一〇ヘクタール以上の土地について事業主が土地利用事業を施行しようとするときは、第六条の承認の申請に先立つて、当該土地利用事業に関する計画について、あらかじめ被告に協議し、その同意を得なければならない旨の規定がある。

2  原告の事前協議の申出

原告は、県指導要綱第一〇条の規定に基づき、昭和六二年二月二七日及び同年三月六日の二回にわたり、県指導要綱に定められた様式に従つて、多目的温泉付アスレチツクリゾート開発事業を目的とする事前協議申出書を被告に提出して協議の申出をした(以下右の二回の申出を「本件事前協議の申出」という。)。

3  被告の却下処分

被告は、本件事前協議の申出に対し、いずれも申出書を受付けることなく窓口でこれを拒否し、もつて右申出を却下する処分をした。

4  被告の本件却下処分の違法性

原告は、県指導要綱に基づいて適式に事前協議の申出を行つているのであるから、被告は、これを受付けたうえ原告と協議して行政指導を行い、同意・不同意の処分をする義務があるのに、都市住宅部土地対策課の担当職員は、原告の提出した申請書の内容に目を通すことなく窓口でこの受付を拒否した。

以上のとおりであるから、右申出は、被告において受理されたものとみなすべきであり、右申出を却下したのは違法である。

5  よつて、原告は、本件事前協議の申出に対し被告が昭和六二年三月六日付けでした却下処分の取消しと、本件事前協議の申出が被告において同日付けで受理されていることの確認を求める。

二  被告の本案前の主張

1  原告が提出した事前協議の申出書は、県指導要綱に定める事前協議申出書の形式・内容に全く適合しないものであつたため、担当職員の指導により原告が右申出書を持帰つたものなので、原告の主張するような抗告訴訟の対象となる処分そのものが存在しない。

2  ゴルフ場等の大規模開発については、都市計画法、森林法、道路法、河川法、建築基準法等多くの法令が関連しているので、これらの許認可手続を円滑かつ適切に行うため、静岡県では県の内部組織として土地利用対策委員会を設け、各法律間にまたがる諸問題の処理と調整を目的とした事前審査制度を設けており、この事前審査に当たつての指導基準として、静岡県は、県指導要綱を定め、事業者に対して行政指導を行つてきた。この制度は事業者との合意を前提とするものであつて、県指導要綱上の行政指導は、法的効果を伴うものではないから、事前協議の申出に対する被告の措置は、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為とは考えられず、抗告訴訟の対象になり得ない。

また、被告が、県指導要綱に基づく原告の事前協議申出の受付けを保留しているとしても、原告の開発に必要な法令上の許可等の申請権まで侵害するものではない。

三  本案前の主張に対する原告の反論

1  本案前の主張1に対して

原告の提出した事前協議の申出書は、県指導要綱に定める内容・形式に適合するものであつた。

2  本案前の主張2に対して

県指導要綱は、厳密には法令とはいえないものであるが、次の理由により法令と同視すべき規定に当たり、県指導要綱に基づいてした本件事前協議申出に対する却下処分は、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当する。

(一) 成立過程・施行の方法が、外形的には立法手続と同一の手続を経ており、法令の形態を整え、成文化されている。

(二) 施行以来一三年を経て、その間に五回の改正作業も行われている。

(三) 住民側及び事業者らも、県指導要綱の条文の趣旨に従つて事業計画を進めることが慣習化してきている。

(四) 県指導要綱第二一条には、要綱に定めるところに従わないときはその旨を公表することができる、との制裁規定も置かれ、規制目的の実現を強制している。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。原告主張の日時に原告からゴルフ場造成について担当職員に相談があつたにすぎない。

3  同3は争う。

4  同4は争う。

五  被告の本案の主張

静岡県では県の東部地域(富士川以東)におけるゴルフ場の新設及び増設については、災害の防止、環境保全等の観点から昭和五〇年八月二〇日以降市町村と県民各位の協力のもとに新規受付けを保留してきており(以下「東部凍結」という。)、原告がゴルフ場を計画したいとする裾野市の市域は、本件事前協議の申出のあつた昭和六二年二月二七日及び同年三月六日当時は県指導要綱において東部凍結の地域に含められていたので、担当職員は、原告に対し、本件事前協議の申出は受理しがたい旨を説明し理解と協力を願つたのである。したがつて県指導要綱に根拠を有する東部凍結に基づいて原告の本件事前協議の申出の受付けを保留したからと言つて、県指導要綱に反することにはならない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求の趣旨第一項について

1  被告が、原告の提出した事前協議申出書を原告に持ち帰らせた行為は、被告の本案の主張から明らかなとおり、東部凍結を理由に本件事前協議申出を不適式なものとして受付けなかつたものというべきであるから、被告は、原告の右申出に対して最終的にこれを拒否する意志表示をしたものと解される。

2  しかしながら、成立に争いのない乙第一、第二、第三号証によれば、県指導要綱は、県議会による規制措置要請に応じて静岡県が内部規則として規定したもので、条例等の委任を受けているものではないこと、県指導要綱第二一条によれば、被告は、事業者が右要綱第六条の承認を受けないで土地利用事業を施行したとき又は勧告に従わないときはその旨及び勧告の内容を公表することができる旨規定されているが、それ以外に要綱違反行為に対する制裁措置はないこと、が認められ、右事実によれば、県指導要綱は、法令に根拠を有するものではないので、右要綱に基づく行政指導は、法律上の効果を生ずるものではなく、また、県指導要綱に基づく事前協議の申出を却下されたとしても原告が土地利用事業を施行することに法律上の障害は生ぜず、右事業に必要な国土利用計画法、都市計画法、森林法等の法令に基づく許可等の申出ができなくなるものではないから、本件事前協議の申出に対する被告の拒否は、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しないものと解するのが相当である。

二  請求の趣旨第二項について

原告は、本訴において、本件事前協議申出却下処分の取消しとともに右申出が昭和六二年三月六日付けで受理されたことの確認を求めているところ、右確認の訴えが抗告訴訟として適法であるかどうかはともかく、行政事件訴訟法第三三条第二項によれば、本件事前協議の申出却下処分の取消しが認容されたときは、被告は、その判決の趣旨に従い、当然に右申出に対する許否を改めて判断しなければならないものとされているのであつて、本件事前協議の申出の適法な受理が当然の前提となつているから、請求の趣旨第二項に関する訴えは、訴えの利益を欠き不適法なものというほかない。

三  よつて、原告の本訴請求に関する訴えは、いずれも不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤 松津節子 中山幾次郎)

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